マンハッタンの片隅の、気さくな学際交流会

2015年10月23日 18:30

【10月】勉強会開催(ノーベル賞解説)

2015年10月23日 18:30

【10月】勉強会を開催しました。

自然科学分野のノーベル賞を受賞した研究について、専門分野が近いメンバーに解説してもらう特別回でした。
解説対象となるタイトルは以下のとおりです。

 

ノーベル化学賞

Dr. Tomas Lindahl (Francis Crick Institute)
Dr. Paul Modrich (Duke University)
Dr. Aziz Sancar (the university of North Carolina)
「DNA修復のメカニズムの解明」

解説者:山田真太郎さん(Memorial Sloan Kettering Cancer Center)

遺伝子の設計図であるDNAは常に傷を受けているが、受けた傷を修復する働きを持っている。
修復のメカニズムの基礎にあるのは、遺伝暗号とそのバックアップの相補性である。
――という初歩的なところからスタートした解説でした。

DNAは、その傷つき方に応じた修復の方法を選択しますが、Lindahl氏の「塩基除去修復」、Sancar氏の「ヌクレオチド除去修復」、Madrich氏の「ミスマッチ修復」、各々の功績は、現象を発見しただけでなくメカニズムをも解明する偉大なものでした。

「受賞は、むしろ遅すぎたくらいだ」というのが、解説者の山田さんを始め、専門分野の皆さんからのコメントでした。

 

ノーベル生理学・医学賞

大村智氏(北里大学・特別栄誉教授)
Dr. William C. Campbell(Drew University)
「寄生虫による感染病に対する新しい治療法の発見」

屠呦呦氏(中国医学科学院)
「マラリアに対する効果的な治療法の発見」

解説者:深瀬 嘉之さん(Tri-TDI)

天然物有機化学、創薬化学の分野において大きな意味を持つ発見が、今年の医学・生理学賞のタイトルでした。
天然物有機化学といえば、天然物の構造研究のさきがけとなられた中西香爾先生も会に出席しておられました。
深瀬さんの解説の中で何度も「中西先生こそが受賞すべき」とのコメントがありました。

特に大村智先生のご経歴をたどる形で、研究と企業との画期的なタイアップである「大村方式」にも触れながら、解説が進みました。
「当時の天然有機化合物の抽出は、高性能な機械もなく、技術と忍耐を必要とする職人芸であった」と、その時代を知る板垣又丕先生からのコメントも。

自然界の「偶然」「神様の采配」に驚かされつつ、創薬化学の過去と現在を知る貴重な講演となりました。

 

ノーベル物理学賞

梶田隆章氏(東京大学)
Dr. Arthur B. McDonald (Sudbury Neutrino Observatory Institute)
「ニュートリノが質量を持つことを示すニュートリノ振動の発見」

解説者:稲吉恒平さん(コロンビア大学 天文学科) 

物質を構成する最小単位である「素粒子」、その一種である「ニュートリノ」。
ニュートリノに質量があるらしいとパウリが提唱したのは1930年と、研究の歴史は意外に古いものでした。

太陽由来のニュートリノの量が計算と観測で一致しない「太陽ニュートリノ問題」と、地球の上から来るニュートリノと下から来るものでは数に優位な差があるという「大気ニュートリノ異常」。
この2つの問題を解決する「ニュートリノ振動」について、図を用いながら、ざっくりと解説してもらいました。

シュレディンガーの猫、ニュートリノの香り、といった量子物理学独特の言い回しに、参加者一同、興味津々。
質問の尽きない、アクティブで楽しい講演となりました。

 


解説者の皆さん、ありがとうございました!